かつて年功序列制度のもと、一定の何かを諦めることで、人は安定と豊かさを手に入れてきた。その何かとは、人によってさまざまだ。ある人にとっては夢であり、生きがいであり、才能でもある。本来、生まれながらに持っていたものだ。日本人の多くは、それを自分の胸の奥にしまい込んだまま、日々うつむいて暮らしている。以前こんなことがあった。まだ企業に在籍していたときのことだ。知り合いに五〇代前半のエンジニアがいた。彼の担当する業務はすでにひと昔前のハードのメンテナンスで、仕事はあったりなかったり。
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暇な日はオフィスで過去の設計書の整理をするのが日課だった。平社員であることに特に不満もない。定年まで安楽に過ごせればそれでいい。彼の表情からは、そういう悟りに似た境地が感じられた。だが、そんな彼がある日突然、転職をしてしまった。